【つい読んでしまうシリーズ】最近買ったもの。。。

最近買ったもの。

 

 

 



 

最近買ったのは、小さなキッチンタイマーだ。丸くて、手のひらにすっぽり収まるサイズ。色はオフホワイトで、どこにでもなじむやさしい表情をしている。

このタイマー、正直言ってどこにでもある。ただ、鳴る音がよかった。高くもなく低くもなく、どこか遠くの部屋から誰かが「そろそろだよ」と声をかけてくるような、そんな音がした。

「別にスマホでよくない?」と友人に言われたけれど、スマホのタイマーだと、なんだか日常に入り込めない感じがする。スマホは便利すぎて、時間を“知らせる”というより、“管理”してくる気がするのだ。

このキッチンタイマーは、逆だった。セットした時間がくるまで、ただ静かに待っている。こちらの呼吸に合わせて、そっと隣にいてくれるような、そんな佇まい。

不思議なもので、この小さなタイマーを買ってから、料理の味が少しだけ変わった。焦がさないように火を見張っていた時間が、今は「待つ」時間に変わった。お湯が湧くまで、コーヒーを蒸らす間、ただ椅子に座って、湯気の匂いを感じている。これまでは“ついで”に済ませていた時間が、なぜか豊かになってきた。

買ったのは、ただのキッチンタイマー。でも、手に入れたのは、時間の感じ方の変化だったのかもしれない。

思えば、最近の「買い物」は、物というより、自分に向き合うきっかけを買っている気がする。たとえば、ノート。文房具屋でちょっと高めの1冊を選ぶと、「このページには、ちゃんと自分の声を書こう」と思う。小さなランプを買えば、夜にスマホを閉じて読書したくなる。物が自分を導いてくれる、という感覚。

大人になると、驚くほど「選ぶ」ことが増える。仕事も、人間関係も、暮らし方も。「正解」がない世界の中で、自分にとっての“いい時間”をつくっていくには、小さな選択の積み重ねしかない。

だから、タイマーひとつで生活が変わることなんてない、と思っていたけれど、ちょっと違った。

最近買ったそのタイマーは、僕にこう言っている気がする。

「時間は、ただ流れていくものじゃない。育てていくものだよ」と。