【つい読んでしまうシリーズ】最近捨てたもの。。。

今週のお題「最近捨てたもの」

 

 

 

 

 

最近、靴箱の奥に眠っていた、片方だけのイヤホンを捨てた。音は出ないし、もう何年も使っていない。普通に考えれば、何の未練もなく手放せるガラクタだ。

でも、そのイヤホンには、僕の“若さ”が詰まっていた。

当時、大学に通う電車の中で、毎日のように耳にねじ込んでいた。ラジオ番組を聴きながら、よく笑い、時々泣いた。あの頃の僕は、自分のことがわからなくて、何者かになりたくて、でも何者にもなれないことを知ってしまっていた。だから、そのイヤホンは、世界と自分をつなぐ細い糸のような存在だったのだ。

そんな記憶の詰まったイヤホンを、なぜいまさら捨てたのか。理由は簡単。「部屋が狭くなったから」。ただそれだけだ。物理的な整理が、感情の整理よりも先にやってきた。案外、思い出は生活に勝てない。

でも、本当に「最近捨てたもの」は、それだけじゃない。

僕がこの数ヶ月で捨てたのは、「あの人ならこうするだろう」という幻想だったり、「ちゃんとしていないとダメだ」という強迫観念だったりする。誰かに合わせるふりをして、実は自分の輪郭を消していた、あの生き方。もう要らない、と心から思えた。

その代わりに、ちょっと雑でも、自分の声に耳を傾けるようになった。「疲れてるなら、寝ればいい」「不機嫌なら、まず認めてみる」「嫌なことは、嫌って言ってもいい」。そんな小さなことが、思ったより大きな自由だった。

人は、捨てることで空白をつくる。その空白に、新しい風が入ってくる。何かを捨てるたび、少しずつ軽くなる。でもその軽さは、何もないことじゃない。自分で選び直した重みだけを持ち歩く、そんな軽さだ。

片方だけのイヤホンを捨てた日、ゴミ袋の中でコードが丸まりながら、まるでお辞儀をしているように見えた。ありがとう、って言っているようだった。

そう思えた僕もまた、何かを捨てて前に進んだ証かもしれない。